先日読んだ「プロジェクト・ヘイル・メアリー」が恐ろしく面白かったので、同じ作者の「火星の人」を読んでみました。ハヤカワ文庫SFより、文庫上下2巻。なかなか読み応えがあります。
話のストーリーは、火星探査に訪れていたクルー達が、火星の猛烈な砂嵐により、わずか到着6日目で撤退を余儀なくされます。火星を離脱する寸前、激しい嵐で折れたアンテナがクルーのマーク・ワトニーを直撃、彼は砂嵐の中に姿を消します。仕方なく、マークを置いて脱出したクルー達。しかし、奇跡的にマークは生きていました。不毛の惑星に一人残されたマーク。限られた施設・食料・設備をもとに、植物学者兼、エンジニアとして、自ら持てる知識・技術を総動員して、生き延びる戦いが始まります。
サバイバルSFとでも言うんでしょうか。いかに、今ある設備で工夫して、荒涼とした火星の中で生きていくかというお話です。途中途中で、なんとか救出しようと苦戦するNASAとのやりとりも入ってきます。
この本を読んで、はからずとも、勉強・ユーモア・行動力の大切さを感じました。
マーク・ワトニーは植物学者兼エンジニアです。火星で生き抜くためには食料が必要です。そのためには食べなければいけません。カロリーを摂取しなければいけません。貯蔵している食料だけでは足らなかったので、感謝祭用にとっておいたジャガイモを発見し、それを種芋として、植えて栽培します。
ジャガイモを半分に切って、植えて栽培して、できた芋を更に種芋として使う方法、自分は「NHK趣味の園芸」を見て、知っていた知識です。もし、宇宙に行ってもこの知識が役に立つんだと感動しました。他にも水を精製するためには、化学式をしらなければいけないし、地球と効率的に通信するために、24進数を知っている必要がありました。われわれが学校などで勉強している知識は、決して無駄ではないというこことを、あらためて、このサバイバルの現場で、実感させてくれます。
あと、火星で一人きりで、先が見えない状態で暮らしているマーク・ワトニー。普通なら絶望を感じたり、孤独に耐えられなくなることがあると思います。しかし、彼は持ち前のユーモアで、ある意味自分を慰めてるというか、明るく振る舞おうとしているように感じます。仲間のクルーがストックしてあった、ディスコミュージックやコメディードラマを見たり聞いたりして。生きるための娯楽やユーモアが、辛い孤独な毎日をそらす役割をしてくれてるように、自分には感じました。
最後に、主人公マーク・ワトニーの素晴らしい行動力です。途中途中で何度も思わぬ事故にまきこまれます。しかし、彼はそこであきらめたりせず、決して止まりません。常にどうしたらいいか解決策を考え、計算し、実行に移します。悩んでても、くよくよしても誰も頼る人はいないし、何も解決されません。助かるためには、自分が動くしかありません。かれの底知れぬ行動力には素晴らしいものを感じます。
一人の人間を助けるために、NASAが莫大な予算をかけて、しかも人の犠牲もいとわずに、火星に残された一人の人間を助けようとします。人が人を助けようすることの、純粋さ、そして、生き抜こうとしている人間の素晴らしさすら感じます。
本書はアンディ・ウィアーの処女長編となります。国立研究所にプログラマーとして働いていた、趣味は軌道力学の計算という、ガチの人です。その圧倒的な科学知識に裏打ちされた本格的SF。しかも人間ドラマも抜群の本書、まごうことなき名作SFです。「オデッセイ」の題名で、リドリー・スコット監督で映画化もされてます。 小説を読んだあとに、こちらを見ると、実際の思い描いてた火星施設が、見事に映像化されていて、二度楽しめます。
小説、映画ふくめて、本格的なSFとして、おすすめの名作です。